第八回ゲスト リーチェンさん(映画・音楽ファン、ライター)

li-zhen

わたし(秋山羊子)が大好きな人をお招きして、そのゲストの方にとっての「人生の一枚」をめぐって対談をするコーナーです。

第八回目にお招きする方は、リーチェンさんです。
わが関西応援団長(笑)、ソウルメイトです。リーチェンさんの嗅覚、目のつけどころはすごいの。これからもどんどん突っ走ってね。
選んでくれた一枚は、うんやっぱりリーさんならではね。リーチェンさんありがとう。そして愛してます。

リーチェンさんが持ってきた一枚
松任谷由実 - 昨晩お会いしましょう

リーチェンさん(以下、li-zhen):これは、私が初めて手にしたLPなんです。

羊子(以下、Yoko):わー、レコードっていうのがうれしいです。レコード好きのわたしにとっては。考えてみたら日本のポップスを持ってきてくれた人はリーチェンさんが初めてです。このアルバムを選んでくれた理由おしえてもらえますか?

li-zhen:ある朝ラジオから流れてきた『守ってあげたい』を耳にした瞬間にフォール・イン・ラブ!それを歌っているのが松任谷由実であることを知り…

Yoko:あ〜リーチェンさんもやっぱり「守ってあげたい」好きなのね。わたしもすきです。初めてきいた時なんていい曲なんだろーって思いました。「♪遠い夏息をころしトンボをとった」ってところが情景が浮かんで好きなのよね。

li-zhen:私もそのあたりの歌詞が好きですね。私の中では、この歌は「無償の愛」の歌なんです。見返りを求めないで、愛する相手を見守る。なかなかできないよな…とこれは今でもそう思いますね。

Yoko:そうね、「無償の愛」、わたしもそう思います。ユーミンよくこの当時この若さでこんな曲つくって歌えたよなって感心します。あっ、それで話もどすと、ラジオから流れてきた歌がユーミンだって知って…

li-zhen:このアルバムに行きつきました。時を経ても色あせない一枚です。色あせないというのは、私の中で初めて聞いたときに受けたインパクト、印象が色あせていないのかもしれませんね。

Yoko:うんうん、そういうのわかります。根っこが普遍的というか、弱った気持ちを少しでもやわらげてくれる歌だからなのかなって思いました。初めてきいた時のこともう少し知りたいです。

li-zhen:私は子どもの頃、ひいおばあちゃんが住んでいた古い日本家屋に住んでいて、レコードプレーヤーがあったのは2階の誰も使わないひいおばあちゃんの古いタンスが置いてあるようなヒンヤリした部屋でした。

Yoko:あぁ〜そのヒンヤリした感じわかるな〜。

li-zhen:父が好きなジャズを聴く以外に出番のなかった、もちろん私が触ったこともなかったレコードプレーヤーで、針を落とすのもドキドキで。暗くて湿った部屋にぽわんと響くA面1曲目や、針を落とした瞬間にぐわ〜っと音が湧きあがってくるB面1曲目の『カンナ6号線』にもうイチコロ。

Yoko:それは幸せなことですね。疑いもなく入り込んだり信じたりすることって大人になったらそうそうできなくなってくるものね。

li-zhen:確かに!初めて聴いたときのことを詳細に覚えているアルバムは数少ないもの。そういう意味で、それら情景を含めて、テレビやラジオから流れてくるシングルA面の曲しか知らなかった私の音楽への扉を開いてくれた懐かしい1枚です。この対談で羊子さんにこのアルバムを聴いてもらえるのはすごくうれしいし、一方でドキドキしてて(笑)いかがでしたか?

Yoko:いや〜なんか正直はずかしかった。照れちゃった。人のことは言えないんですけど、ほらわたしの歌だってある人にとっては恥ずかしいって感じると思うもの。でもね、だからいいんだ、伝わるんだって思ったの。

li-zhen:自分で曲を作っている方ならではの感想(笑)。日頃口にするとまさに「はずかしい」と思うことを詞にできるのは凄い才能であり、妄想上手であり!

Yoko:いやいやリーチェンさんにはかないませんよ。リーチェンさんこそ妄想の女王だもの!

li-zhen:バレました?(笑)多分、我々が日々口にしている言葉は、本音を必死で包み隠しているのかもしれませんね。

Yoko:ふふふ、本当ですね。けど「好きよ」とか「ありがとう」とか「えらいね」とかもっと言い合えたらいいのにって思います。けど…だからこそ、言えないから歌があって、わたしも必要とされるのかも、ですね。

li-zhen:羊子さんは歌でももちろんそうだけど、素でもそういう言葉がすっと出てくるからいつもビックリしちゃう(笑)きっと、言えない頃があったからこそ、今はそれを思った時に口にできるようになったのだと思うのだけど。自分の感情に素直に生きるってなかなか難しいから素敵なことですよ。見習いたい! と思いながらいつも羊子さんの歌を聞いてます。

Yoko:ありがとうございます。ユーミンの歌の主人公ってけっこう暗いっていうか、好きな人や好きだった人のことぐじぐじ思ってて…。わたしの歌の世界とは違うんだけど、けどさみしいとか不安とか行き場のない気持ちとか昔の人間関係引きずってるとか、その暗さみたいものは共通してるかもって思った。そういうのが歌になるのよね。

li-zhen:幸せだったころを大事に抱きしめすぎて、前に進めない主人公たち。今から思えば暗いんだけど、その暗さが好きな自分がいて。好きな人を想い続ける独りよがりな出口のない恋の歌に結構共感してました(笑)。今ならストーカー呼ばわりされてしまいそうだけど(笑)。

Yoko:(笑)。でも実際に行動に移すのと妄想するのとは違いますよ〜。でも歌があるからとどめられるってのもあるかもね〜って思いました。「守ってあげたい」の他にお気に入りの曲は何ですか?

li-zhen:最近のお気に入りはラストの「A Happy New Year」です。ピアノの弾き語りから始まって、1番から2番、3番と進むうちにどんどん厚みが加わってきて、きれいなストリングスで盛り上げる展開。歌詞も素直に来年こうだったらいいなということを静かに歌い上げていて、昔は暗い歌と思ってたけど、今は好きですね。

Yoko:わたしも「A Happy New Year」切なくていいなって。アルバム通してなんですけど、アレンジが男性的だなって思いました。きっとだんなさんがアレンジしてるんだと思うんですけど、アレンジって大事なんだなって思いました。きっと当時の流行をとらえてたのね。そしてこのアレンジっていうお化粧がアルバムを通して徹底してる。だからリスナーをつかんだのね。リーチェンさんもそのひとりだし。

li-zhen:まさに正隆氏の思うつぼリスナーでした(笑)。やはりユーミンみたいに時代の先端を行くことが期待されているシンガーは、ある意味当時の人が「オシャレ」と思うラインを意識してアレンジされていたんでしょうね。確かに徹底したお化粧で(笑)、そこに憧れたんだろうと思います。

Yoko:徹底っていうのがわたしすごく好きです。これは愛がないとできない。ぜったい。ところでユーミンってやっぱり歌詞をとっても聴いちゃうんですけど、リーチェンさんはどうですか?

li-zhen:私も歌詞はかなりじっくり聞いてます。羊子さんの曲「ジンギスカン」もそうだけど、映画のようにシーンを浮かべながら聴くときもあります。実は、1曲目の「タワーサイドメモリー」の歌詞で出てくる「ポートピアも終われば…」は、当時神戸で開催されていた博覧会のこと。東京タワーなら超メジャーだけど、華やかな人口島に新しい遊園地にと神戸が一番元気なときのこの博覧会のことをちらりと歌詞に入れてくれたことは、聞いたときすごくうれしかったし、今はとても懐かしいです。遊園地も今やIKEAになっちゃったから。

Yoko:へー博覧会が開催されてたのね。コーベーガール(?)って歌っていますね。

li-zhen:そう、まさに神戸タワーがあって、モノレールがあって…コウベガールの歌なんです。ポートピア博覧会みたいに、期間限定の恋だったみたいですが。

Yoko:2曲目の「街角のペシミスト」のペシミストってどういう意味かな?

li-zhen:辞書を引いたことはありませんが、歌詞のニュアンスでは孤独な都会の女たちって感じかな。想像ですけど(笑)

Yoko:なるほど〜ユーミン孤独だったのかしら。なんかきいてるとユーミン鬱だったんじゃないかって思ったもの。だれでも鬱になるもの。リーチェンさんは今でもレコードは聴かれますか?

li-zhen:レコードプレーヤーが10年前に壊れてしまってからは、レコードが聴けなくて押入れに眠ったまま。すっかりデジタル化してしまいました。でも、またレコードに戻る機会があるんじゃないかと思います。この対談がそのきっかけかもしれないし♪

Yoko:わ〜そうだったらいいわね〜。わたしたちがおばあちゃんになったとき、孫がわたしたちの部屋でこっそりレコードプレイヤーに針を落とすっていう歴史は続いて欲しいな。

li-zhen:それいい!どれだけ便利な世の中になっても、レコードを聴いたり、手紙を書いたり、一緒に歌を歌ったり…とアナログな営みは継承されていくと思います。大好きな、そして尊敬するアーティストの羊子さんと、私の思い出の一枚についてじっくり語れるなんて、夢のような企画でした。昔のことを思い出したり、改めてこのアルバムについて解釈が出来たりして、とても楽しかった。羊子さんにこんなに「暗い!」と言われるとは思わなかったけど(笑)ありがとうございました!

リーチェンさんのブログ Happy Together

(2009.4.30)

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