第六回ゲスト 三鷹の山田さん(音楽ファン)

MITAKA no YAMADA

わたし(秋山羊子)が大好きな人をお招きして、そのゲストの方にとっての「人生の一枚」をめぐって対談をするコーナーです。

第六回目にお招きする方は、三鷹の山田さんです。
山田さんは、ライヴハウスの入口に貼られていた『指一本で倒されるだろう』の宣伝ポスターをたまたま見かけて、何かピンとくるものがあって、レコ発ライヴに来てくださいました。以来とっても強力なパワーを送ってくださっているファンの方です。ブログにも時々コメントを書いてくれています。最近はランニングをはじめられたそうですが、この暑い夏、大丈夫かしら。

三鷹の山田さんが持ってきた一枚
THE DOORS - Strange Days

羊子(以下、Yoko):いやーそれにしてもインパクトあるジャケットですよね。とってもいい!ナイス!

三鷹の山田さん(以下、Yamada):その通りです。聴く前から「まぼろしの世界」(邦題)に入り込みますね。石畳の街並みが西欧中世ぽっくて好きです。ちなみに裏面の写真も良いですよ。

Yoko:うんうん、裏ジャケットもいい。山田さんがこのアルバムに出会ったのはいつ頃なのですか?

Yamada:大学2年生の時です。吉祥寺駅の南口に新星堂ディスクインがあったころですから随分と昔の話ですね。1985年だと思います。第一、レコード盤ですからね。当時のディスクインは、輸入レコード専門店とうい感じで、不思議な空間でした。60年代のロックやフォークから当時流行の輸入LP盤が山のようにある訳ですから。

Yoko:今はもうないんですね。残念ですね。

Yamada:吉祥寺のディスクインは、ロンロンのエキサイツ館に移ったので、なくなった訳ではないです。昔の“輸入LP盤がごった返している”良き時代の『レコード店』ではなくなってしまいましたが。ただ、輸入CDが豊富なのは変わりません。

Yoko:あっ、そうなんですか。山田さんはドアーズは好きだったのですか?

Yamada:The Doorsは、コッポラの映画『地獄の黙示録』で知っていたのですが、このジャケットで驚きました。不思議でしょう。後にCDでも買い直しましたが、あのレコードジャケットの大きさの迫力は違いました。

Yoko:そうですね。この迫力はレコードじゃないと伝わってこないですね。それで買ってからくり返し聴いたのですね。

Yamada:当時住んでいた荻窪の下宿で聴き入ってしまいました。音の使い方や歌詞の内容がアンダーグラウンドの雰囲気プンプンでしょう。輸入盤だったので辞書を引き引き、なかなか理解できなかったけれど、韻を踏んだ歌詞にすっかり魅了されました。大学時代、僕は西洋史専攻で、3年生になってから近世フランス史を専攻することになるのですが、ボーカルのジム・モリソンはランボーなどのフランスの詩人が好きだったようですね。結局、彼はパリで亡くなるのですけれども。

Yoko:すごいですね。辞書を引きながら頑張って理解したのですね。わたしは言葉はもちろんわからなかったけど何か伝わってくるものがありました。

Yamada:当時は大学に入りたてで、今よりは英語が分かっていたようです。もう辞書引き引きなんて気力はありません(笑)。このアルバムの魅力は、なんと言っても歌詞の美しさだと思います。聴いているうちに彼らの世界観に沈むように引き込まれて行く。各々の曲が納められているのではなく、アルバム全体として構成されているように思えます。全体的に静かで詩篇を紡いでいる雰囲気が好きです。

Yoko:わたしも感じました。アルバム全体で一つな感じがいいです。一曲一曲の繋がり方がとても自然で見事ですね。

Yamada:A面最初の「Strange Days」で奇妙な迷宮に誘い込まれ、『sin』(原罪)について語ろうとし、「Moonlight Drive」で、開放されたように月夜に泳ぎながらA面が終わる。この奇妙な経験をした後、B面では「People are strange」で属している世界に溶け込めない『僕』がいる。そして最後の「When the music's over」では、「僕たちは『世界』が欲しい。それが欲しい。今!」と、神に救いを求めるように絶望の淵に沈んで行く。1曲目の「Strange Days」での「We shall go on playing or find a new town」からすれば、「When the music's over」の「We want the world」は、新たな世界とか自らの手で創造する共同体のようなものを暗示させているように思えます。

Yoko:いやー聴き込んでますね。

Yamada:このアルバムを聴く時は、A・B面の各構成と、レコード盤をひっくり返して全体を聴く両方を楽しんでしまったアルバムです。A面が終わって、B面を聴く前にレコード盤を返して準備する、ちょっとした静けさが良かったのです。今のデジタル世代にはない感覚でしょうね。

Yoko:レコードっていいですね。本当に。わたしの聴いての印象は、何か混沌としたグレーな世界の中に正反対な楽天的でハーレムっぽい雰囲気が感じられました。A面5曲目「Moonlight Drive」は『地獄の黙示録』の雰囲気を思い出しました。映画にドアーズの曲使われていましたものね。時代的にベトナム戦争のころですよね。この独特のムードって麻薬と関係あるのかしら?

Yamada:完全にそうです。ジムの死因自体、麻薬の使用からと言われています。60年代の時代的な背景もありますが、幻想的な詩が多いです。彼らから時代背景のベトナム戦争は無視できませんね。

Yoko:やっぱりそうなんですね。A面3曲目「Love Me Two Times」この曲、何か好きです。ギターのフレーズとかキメがいいです。

Yamada:アルバムの中で一番ポップというか、聴きやすい曲ですね。僕も好きです。

Yoko:B面3曲目「I Can't See〜」は映画『ブレードランナー』を思い出しちゃいました。日本の夜の飲屋街みたいなのをイメージしました。

Yamada:僕は西欧中世都市の夜を想像しちゃいました。確かに『ブレードランナー』の雰囲気がありますね。僕もこの映画大好きです。

Yoko:山田さんも好きなんですね。B面1曲目「People Are Strange」は何だか「泳げたいやきくん」を思い出しちゃったよ〜。何でだろう?曲の雰囲気が似てる気がして。

Yamada:(笑)。ジムの詩を生かすために、ゆっくりとした聞きやすいテンポだから、曲のリズムが似ているのかも。

Yoko:なるほどたしかに「泳げたいやきくん」も詞が全部ばっちりわかりますね。詩を生かすリズムですね(笑)。感心したのがドラムとベース、とくにドラム。最初はギターの人が目立ってて面白いギターだなって。けどいや待てよ、このドラムすごいぞって。存在が気にならないっていうか、何ていい意味で気配を消すんだろうって思いました。ドラムのJOHN DENSMOREさん、すごい!

Yamada:これは意外でした。羊子さんの言うとおりで、彼の「気配を消す」作用で、ジムの個性をしっかりとサポートしているんでしょうね。今後、聞く時に参考にさせて頂きます。

Yoko:ところで山田さんは現在はレコードプレイヤー持ってるのですか?

Yamada:10年ほど前まではありました。高校を卒業して、すぐに地元の工場でアルバイトして買いました。当時で10万円だったかな。パイオニア製のでチューナーやカセットデッキなどが別々になっているタイプでした。カセットのモーターやアンプの調子が悪くなって諦めて捨てました。店員さんに「良いものなので修理をすれば」と言われましたが、レコード針が生産中止で手に入らなくなると言われていたのも諦めた原因です。自分で働いて買った初めての高額商品。やっぱり残念でしたね。プレーヤーはありませんが、レコードは捨てられません。

Yoko:そうなんですか。そういう感じでレコードプレイヤーを手放した人は多いのかもしれませんね。わたしは去年プレイヤーを買って、それ以来レコードばかり聴いています。では最後に、山田さんはこのアルバムを聴くことで何か変わりましたか?

Yamada:The Doorsの影響もあったと思いますが、ロートレアモンやランボー、マラルメといったフランスを代表する詩人に出会うことができ、知識への扉を開いてくれたアルバムだと思います。

Yoko:「知識への扉を開いてくれたアルバム」っていいですね。よくわかります。いいものって次に繋がりますよね。そういう出会いいっぱいしたいな。

Yamada:お礼にもなるのですが、羊子さんの音楽に出会えてから、ライブハウスに足を運ぶようになって、いろんなミュージシャンの演奏も聴けたり、少し勇気を持って演劇なんかにも行くようになりました。いろいろと楽しみが増えました。

Yoko:うれしいな。今度演劇の話も聞かせてくださいね。今回はどうもありがとうございました。

Yamada:こちらこそありがとうございます。ゲストに選ばれるなんて、ファンとしては光栄です。演劇は、舞台の緊張感を感じるのが好きなんですが…。羊子さんのライブと同じ真剣勝負ですね。今後の活動も期待しています。

(2008.8.18)

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