第四回ゲスト 小川紀美代さん(バンドネオン奏者)

小川紀美代さん

KIMIYO OGAWA

わたし(秋山羊子)が大好きな人をお招きして、そのゲストの方にとっての「人生の一枚」をめぐって対談をするコーナーです。

第四回目にお招きする方は、小川紀美代さんです。
YOKO's Cafe Talk最初の女性ゲストです。
紀美代さんは色で例えると真っ赤、そして青です。常に相反するものを感じます。力強くて繊細で、スピードと静寂、個性と庶民性、、、そしてどこかまるで実在しないような不思議な印象。つまり、惚れています。紀美代さんのことが大好き。
そんな小川紀美代さんの特別な一枚、とっても気になります。

小川紀美代さんが持ってきた一枚
GAVIN BRYARS - The Sinking Of The Titanic/Jesus' Blood Never Failed Me Yet

GAVIN BRYARS - The Sinking Of The Titanic/Jesus' Blood Never Failed Me Yet

(まずは2曲目「Jesus' Blood Never Failed Me Yet キリストの血は私を見捨てなかった」を聴いて。)

羊子(以下、Yoko):すごくよかったです!

小川紀美代さん(以下、Kimiyo):よかった〜羊子ちゃんはどんな反応するかなって思ってたんだけど。。でも感覚的にきっと合うところがあるって思ってました。

Yoko:あーうれしいなぁ。現代音楽ってことでどこか難解なんじゃないかって先入観が少しあったんですけど、こんなに揺さぶられるとは思ってませんでした。やられました〜。紀美代さんはどういうきっかけでこの曲に出逢ったんですか?

Kimiyo:最初に聞いたのは「The Sinking Of The Titanic」のほうです。たまたま行ったスタジオで流れてて、耳にしたとき「なんだろう、この美しい曲は?」と思いました。なんというか、コンセプトとか音の歪み、世界観がとても気になって。

Yoko:そうだったんですか。「Jesus' Blood〜」ですけど目からウロコでした。同じフレーズをひたすらくり返してるのに全くあきなくて、むしろ逆。それは同じじゃなくて少しずつアレンジや微妙なテンションが変化していってるせいもあるんでしょうね。それとくり返してる素材そのものがいいからでしょうね。

Kimiyo:そうそう、ぜんぜん飽きない!このフレーズ、路上生活者が口ずさんでいたものを採取した、というように書かれているけどすごいよね。あと、作為的でない間がいいです。そこに考えぬかれた弦オケが重なるからテンションが高いよね。

Yoko:あっ、その間がわたしもいいって思いました。最初は戸惑ったんですけど、弦が入ってきて震えて、そして高まってきて希望にあふれて、最後の方はリラックスって感じで。ラストはバス停でバスが遠く見えなくなるまでずっと見送ってる、そんな情景が浮かびました。

Kimiyo:そのときの自分の状況によっていろんなことが考えられるよね。私はなんだろう、寝る前とか酩酊状態、軽く意識を失いかけるようなときに頭の中で起きることのような、走馬灯のような状態をよく想像します。

Yoko:うわーそうなんですか。わたしは紀美代さんのアルバム『月ノ光』との共通性を感じました。紀美代さんのアルバムにはストーリーとシンプルさと徹底して統一されたトーンみたいなものを感じます。そのトーンはちょっとさびしげで、でも自由で、喜びがあって。この曲にもそういうものを感じました。

Kimiyo:ありがとう。私の一番好きなバンドネオン奏者でディノ・サルーシという人がいるのですが、この人の作品とブライヤーズの作品にもすごく共通点を感じます。

Yoko:聴いてみたいなぁ。紀美代さんとは感覚的にするりと通じ合える部分があって、だけどわたしにはない魅力的な部分もあって。他にもおすすめがあったらあとで教えてくださいね。あっ、この「Jesus' Blood〜」を選んでくれた理由ですけど…

Kimiyo:一言で言うと、自分が死ぬときかかっていて欲しい曲です。

Yoko:(笑)紀美代さんはなんていうか日本人じゃないなー。自由な人だなぁ。じゃあ普段は聴かないのですか?

Kimiyo:意識が朦朧とするようなときによく聴きます。呑んでるとき、寝る前、ジョギング中。(笑)

Yoko:ははは。ジョギング中っていうのはちょっと意外です。では1曲目の「The Sinking Of The Titanic」にいきますね。この曲を聴いてわたしは希望と感謝を感じました。あと生と死、誕生と終わり、みたいな普遍的な深い何かを感じました。けど何かリアルなものも感じたんです。

Kimiyo:声とか信号音とかは実際のものを使っているところもあるんじゃないかな。

Yoko:へーそうなんですか。小さくピアノの旋律が入ってて、その違和感がいい具合にしてると思いました。

Kimiyo:それもそのとき弾かれてた曲を壊れたピアノ風にランダムにいれてるんじゃないかな。タイタニック号が沈没するとき、乗客がパニックに陥っても楽団は讃美歌を弾き続けていたそうです。その感じを水の中で演奏が続行しているかのようにエフェクトをかけながら作られてます。ちなみに日本人の唯一の生き残りが細野晴臣さんのおじいさんだったということで、国内盤では彼がライナーを書いてます。

Yoko:そう、細野さんのおじいさんだったんですよね。昔見たTVのタイタニックの特集番組か何かで知りました。おじいさんが生き残ったから細野さんが今いるんですね。それでそう、水の中にいる感じのエフェクトのせいかな、ジャック・マイヨールやイルカが海を泳いでるイメージが浮かんできました。あと内橋和久さんやシガーロスを思い出しました。

Kimiyo:ブライヤーズは即興系のベーシストでもあったので、その辺の空気感や自由さを感じさせるのかもね。

Yoko:へーそうなんですか。共演してみたいなー。まだ演奏活動されてるのかな。この曲を聴いてあらためて思ったんですけど、音楽には恐怖や不安から解放してくれる力があるってわたしは信じています。紀美代さんは音楽ってどういうパワーがあるって信じていますか?

Kimiyo:音楽を創るときと聴くときでまた違うかな。創るときはただ無心の境地を与えてくれる。聴くときはわりと扇情的なものよりも否定も肯定もされないかわりに自由にイメージできるものが好きかも知れない。それが結果的にいろいろなものから解放されるってことにつながると思います。

Yoko:「無心の境地」ですか。たしかに紀美代さんが演奏してるとき感じます。あー何かいっちゃってるって(笑)。それにわたしも巻き込まれます。だからかぁ、紀美代さんと一緒に演奏したり歌うと最高なのは。わたしもいきたい、無心の境地。

小川紀美代さんウェブサイト http://www5c.biglobe.ne.jp/~kimiyo/

(2008.4.3)

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