第七回ゲスト 徳永淳さん(ベーシスト、ヴォーカリスト)
ATSUSHI TOKUNAGA
わたし(秋山羊子)が大好きな人をお招きして、そのゲストの方にとっての「人生の一枚」をめぐって対談をするコーナーです。
第七回目にお招きする方は、徳永淳さんです。
徳永さんは、『指一本で倒されるだろう』のレコーディングに参加してくれて以来の付き合いで、わたしがバンドでライヴをするときはいつもベースを弾いてもらっています。
周りとのバランスを考えながら、かつソウルフルでハートのあるベースを弾いてくれます。カーミンズというバンドで歌とベースと作曲を担当しています。
徳永淳さんが持ってきた一枚
WINGS - Wings Over America
徳永淳(以下、Tokunaga):一枚選ぶのは迷っちゃいました。食べ物だったら『バターご飯』で決まりなんですが、、、
羊子(以下、Yoko):ふふふーっ。バターご飯はわたしも好物です!いや〜それにしても28曲115分全部聴くのはちょっと大変でした(笑)。けど内容がいいからすばらしい長旅でしたよ。
Tokunaga:ですよね。すみません。嫌がらせとかそういうつもりは無かったんですが。。。おつかれさまでした。
Yoko:いえいえ楽しんで聴けましたよ。このアルバムを持ってきてくれた理由を教えてもらえますか?
Tokunaga:ポール・マッカートニーが好きだからですね。
Yoko:好きだから!そういう率直なところ好きだなー。
Tokunaga:このライブのポールは、ベース&ボーカルだったりギター&ボーカルだったりピアノ&ボーカルだったりするけれど、どれもかっこいいんですよ。コーラスもしたりするけど、これがまたカッコいい。声がやたらカッコいいんですよ。バンドも調子が良くて、勢いがある。ポール・マッカートニーの最高のライブ盤だと認識しています。
Yoko:このアルバムに出会ったのはいつごろですか?
Tokunaga:中3の時でGEOでレンタルしました。元々ビ−トルズが好きで、ビートルズの曲も多く演奏しているため借りてみました。
Yoko:ビートルズの曲入ってますね。最初の感想はどんな感じでした?
Tokunaga:「まあまあいいな。」位にしか思わなかったです。あんまりよく分からなかったんですよね。当時はポールのソロの曲には興味が無かったため、ほとんど聴きませんでした。。。
Yoko:へーっ、それはちょっと意外です。
Tokunaga:まあ、自分にセンスがなかっただけです。で、ある日ダビングしたカセットテープをかけて漫画を読んでたら、なんか引っ掛かったんです。すごくポップなフレーズが流れているのに気が付いて。メロディラインもベースラインもポップだった。「なんだこりゃ?」と思いました。
Yoko:そういうのってありますよね。きっとタイミングってあるし、ボーッとしてリラックスしてるときの方が入ってくるのかもしれませんね。
Tokunaga:そんな感じでした。何の漫画を読んでいたかは忘れてしまいましたが。。寝転んでましたから、相当リラックスしていたと思います。
Yoko:何の漫画か気になる(笑)。「なんだこりゃ?」ってひっかかった曲ってどの曲か覚えてますか?
Tokunaga:「Silly Love Songs」です。
Yoko:あっ、実はわたしもこの曲ひっかかりました。いいなーって思った。「♪I Love You〜」をくり返すのがとても印象的ですね。
Tokunaga:僕の場合は、常にバックで鳴っている「♪デンデンデンデンデンデンデンデン/デーデンデンデンデンデンデン/デンデンデンデンデンデーンデン/デンデンッデーンデンデンデン」ってベースラインが印象的でした。メチャクチャありきたりっぽいのに唯一無二のフレーズ。ポール・マッカートニー風のベースラインと言われて、このフレーズを選択するベーシストって多いと思うんですよね。
Yoko:ベースラインには注目してませんでした。もう一回聴いてみます。それにしても音楽の喜びに満ち満ちてますね。レコードからあふれ出てます。
Tokunaga:そうなんです。メチャクチャ調子いいんです。ヒットを連発してて自信があるというか、余裕があるというか。スターって感じですね。
Yoko:ポールって何て音楽の懐が深いんだろうって思いました。心のひだをなんて上手に表すんだろうって。
Tokunaga:いろんなのが好きだと思うんですよね。そして、いろんなことが出来ると思うんですよね。で、その中から自分を見つけ出す苦労もしているとは思うんです。
Yoko:そうですね。いろいろできちゃうとまた苦労もあるのかもね。聴いてたらいろんなミュージシャン思い出しました。ビリー・ジョエル、スティーヴィー・ワンダー、クイーン…とくに「Magneto And Titanium Man」かな。
Tokunaga:僕の場合、それが逆になるんです。ビリー・ジョエルとかクイーンとかギルバート・オサリバンとか聴くとポールを思い出しちゃいます。
Yoko:あっそうかー、時代的にはポールが先ですものね。このアルバム聴いたら、ちょっと最近元気がないわたしの心に襲いかかってくると同時にエンジンを刺激してくれた感じです。
Tokunaga:大丈夫です???
Yoko:(笑)もう今は復活したから大丈夫です。徳永さんは今カーミンズというバンドを組んでますけど、ポールからの影響って大きいですか?
Tokunaga:音楽的には直接的な影響はないんですけどね。バンドを組む動機になりましたね。僕は大学卒業後はギターの弾き語りしてたんですよ。でも、ある日このライブの映像を見て勢いに圧倒されました。「やっぱバンドだな。」「やっぱバンドだよ。」と触発されバンドを組んじゃいました。とにかく全員勢いがあります。ポールだけでなく全員ってとこがいいんですよね。
Yoko:うん、わかります。ビートルズ時代の曲も入ってますね。「Blackbird」大好き。あと「Yesterday」も言うまでもなくいい曲だね。
Tokunaga:当時のファンにとって「Blackbird」は超レアだったと思います。泣いちゃいますね。「Yesterday」はライブで聴くと、よりその楽曲の良さが伝わってきます。秋山さんにも是非ライブで歌って欲しいですね。「♪Oh, I believe in yesterday」のところとか、すごいきそうです。
Yoko:わーっ「Yesterday」は畏れ多いなーっ。すごくいい曲ですよね。ポップですよね。ポールはベーシストだものね。ポップなのはベースが絶妙に支えたり引っ張ったりしてるのかな。ベースラインってメロディーの次に大事だもの。
Tokunaga:そうだったのか。。僕も気をつけないといけませんね。ポールのベースはすごくシンプルなんですけど耳に残るフレーズが多いです。
Yoko:リードヴォーカルって全部ポール?だとしたらずいぶんいろんな声色もってるんですね。「Maybe I'm Amazed」の裏声ばつぐんだね。
Tokunaga:このライブは数曲を除いて、ほとんどポールが歌ってます。いろいろな声が出るんですよね。これは、ビートルズの頃の方が顕著ですね。しかも、いつもそうなんですが、ライブでは他にリードギター弾いたり、ピアノ弾いたりもしてます。更にレコーディングではドラムも叩きます。。
Yoko:そうなんですか。いろいろできるんですね。レコードだとSide3にあたるところは基本的にギターだけの伴奏の曲ばかりで演奏がたおやかでせつなくていいですね。
Tokunaga:俗に言う、アコースティック・コーナーですね。最近はクラプトンとかもやってますけど聴いててありがたみがあります。「Blue Bird」のサックスのソロもいいですね。ちなみに、あの曲のリードギターはポールです。
Yoko:そうなんですか。ところでわたしは『Chaos and Creation in the Backyard』っていうわりと最近のアルバムを持ってて気に入ってるんですけど、徳永さんはどの頃のが好きとかこの辺りはあまり好きじゃないとかありますか?
Tokunaga:好きなのは、やっぱビートルズ時代ですね。余すことなく才能を出し切っていると思います。失礼極まりないですが、それでもまだ余ってる才能でソロワークを行っているっていう個人的な認識です。ビートルズ解散後ではウィングス時代の楽曲が好きですね。まあ、結構どの時代も好きです。ただ、どうしてもビートルズ時代と比較してしまうので、絶賛はできないんです。
Yoko:思い入れがあるからこそですね、そういう気持ちって。これってライヴ盤ですけど、スタジオ録音のアルバムも聴いてみたいです。
Tokunaga:これ買った後にWingsのBESTを買って初めて「Silly Love Songs」の原曲を聴いたんですが、「なんだこりゃ?」と思いました。全然良いと思わなかったし、むしろ悪いと思っちゃいました。音質もバランスも好きになれませんでした。試しに、これなんですが。
(ポール・マッカートニー『オール・ザ・ベスト』収録のスタジオ録音の「Silly Love Songs」を聴いてみる。)
Yoko:あれー、けっこう違いますね。ちょっとディスコっぽいですね。はりきっちゃってるというか。単純にテンポも早いですね。
Tokunaga:う〜ん。なんかね〜。違うんですよ。偉そうですけど。これだけでは、ポールを好きになれないんですよね。ビートルズがないとしたらね。迫力がないんですよ。。でも、あえてビートルズから脱却するためにこういうアレンジにしているんだろうなあとは思うんですが。。。そういう意味でもこのライブ盤はすごくいいんです。声が全然違いますよね。ベースもうねりとか粘りがあります。ビートルズ時代のポールに通じるあの迫力があります。やっぱポールの最高のライブだと思います。ってこれは誉め過ぎでしょうか?
カーミンズ ウェブサイト http://www.ca-minz.net/
(2008.10.2)